EPISODE 4 「ナヴァホのバズ」


「バズ」という呼び名のナヴァホ(正式にはディネ族)、
僕を変わった来訪者として面白がって仕事が終わると僕を遊びに誘いに来た。


初めてバズにあったとき僕は失礼のないように気を使い言葉を選んで
『失礼ですが貴方はこのあたりの先住民の方ですか?』と聞いた。彼はむねを張って
『そうだ、おれはナヴァホ(族)だ』と答えた。あのシーンは忘れられない。
「僕は日本からあなた方のトラディショナルを学びたくてあなた方を探してここまで来た」というと、
しごとが終わってから時間があるからあとでどこそこで会おうと言われる。


『おれはインディアンじゃないよ
やめたんだ、インディアンでいること
インディアンなんてくそくらえだ。
おれは白人と同じことをして生きていく。
だからおれにナヴァホ(インディアン)のこと聞いても無駄だ。
だって、おれはインディアンじゃないから(笑)___。』
僕が真面目な話をしようとすると酔ったバズは何度も繰り替えしてはぐらかす。
毎日、バーからバーへ場所をかえては同じような話題をくり返し、
遊びとしては楽しいがそれで終わらせたくなかった。

  その後、いろいろ僕らをとりまく状況は変わり、彼は相変わらず白人文化で生きている。
彼とはその後も兄弟の仲のままだ。
彼はトラディショナルに生きてはいないし語らないが、実際には彼が教えてくれたことも多い。


ある時、実は彼も70年代にはトラディショナルなインディアンの活動家だったことを知った。
なのにそれをやめて自分がインディアンではないというまでにはよほどのことがあったに違いない。
インディアンでいることはとてもハードな状況を受け入れなければならない。
事情は複雑だがこの構図そのものは珍しくなく簡単に理解できる。
人それぞれに感じ方、受け止め方は違うだろうが、僕ら差別されたり、文化を押し付けられたりしたことのない世界で生きる人間にははかり知れないものがある。
事情を察してバズに何故「インディアンでいることをやめた」のかを聞いたことはない。


最近バズとはあまり会えなくなり、現地で電話で話すくらいだ。
でも、僕もバズも若かったころのバカなエピソードは沢山ある。
その笑いの中にネイティヴなりのエッセンスが垣間見れると、僕は思い起こしている。
おいおいそんな話も紹介しようと思う。


EPISODE 5「儀式に出るまで」