EPISODE 5「儀式に出るまで」


バズと遊んでいてもらちがあかない。旅の場所を移したほうがいいんじゃないか?
そう思いつつも、彼が紹介してくれた彼の奥さん、家族、友だちなど沢山のナヴァホ、ホピ、その他の地元の人、旅人に会うことが出来、また寝場所を与えてくれるので、なかなかその土地を去る決心は出来ないでいた。
中でもバズの奥さんのフローラは夫婦でありながらバズとは反対にトラディショナルを守っている人だったし、
家族の他の人にもトラディショナルを守っている人はいたから、そういう人といる時はいろいろ真面目に話をしてもらえた。

 

バズの奥さんのフローラとはよく厳しい話をした。
『あなたは私達の伝統のどんなところに、なぜ、何のために、興味があるのか』
普通に生きているだけなのに求められる当事者として当然の疑問かもしれない。
僕が彼等のトラディショナルな生き方に憧れる理由をつたない英語で必死で説明した。 


ある日、決心して次の土地を目指してバスに乗ることにしたとき、バズの義理のお父さん(=フローラの父)がサンタフェに娘(フローラの妹=バズの義理の妹)がいるから面倒みてくれるように頼んでおいてくれた。
お父さんの伝言で「お前のことは考えておく」とも加えられた。
そして、その旅の途中、フローラの妹ユニスの家に滞在中、「ユニスの儀式にいっしょに出てもいい」という連絡があり、戻ることになった。


ディネ族伝統の儀式でユニスをソサエティに一人前の大人として改めて迎え、祝福するためのものだった。
難しく厳しい通過儀礼ではなく、日本の成人式のように形式だけ無意味な儀式でもない。
本人と取り巻く周りの人の意志を確認して祈る_そんな意味がある。そして僕を迎えてくれるものでもあった。
人気のないアリゾナの砂漠で、儀式が行われる前の日の朝から準備に入り一晩中激しく燃やし続けるに充分な薪を用意するのが僕の仕事だった。
アメリカでの僕はしょっちゅう野良仕事をしている。
農業も手伝えばカウボーイも手伝う、看板屋も手伝う。何を何度やっても柔な手はいつも傷とまめだらけでぼろぼろになる。 
儀式に関係ないはずのバズが準備が終わる頃あらわれた。どういう風の吹き回しだろう。
そのまま儀式に出て、彼は僕に儀式中のディネ語を英語に訳してくれたり、次に何をするか教えてくれたりという面倒もみてくれた。


僕はインディアンのなかでも非常にトラディショナルなこの家族にめぐりあった。
本当の彼等の文化を伝えられるのは口頭伝承だけだ。
だから僕も彼等のトラディショナルを守るために、また個人のパワーを尊重するためにも口外したり、
書き伝えることは極力避けている。(「極力」とはあえて必要を感じる例外の場合もあるから)
だからここで簡単にそれ(儀式)を解説するのは避ける。
儀式は想像以上のもので、強力なヴィジョンを見ることになり、終わったあと力にあふれた感覚に鼻息を荒くした。
このうえなく爽快で何か解らないけどなんでもできる感覚につつまれた。
砂漠の朝の風に同化したような感覚もよく覚えている。
儀式の最後にモーニングウォーターウーマン(メディスンウーマン)が僕のために作ってくれていたインディアンのシャツを着せてもらい、バズのお姉さんに『帰るところができたね』といわれたとき感激に泣けた。
  この時バズの両親がバズを囲んで(hugして)泣いていた。
不良中年の息子が伝統の中に帰ってきたことを喜んでいたんだ。僕も嬉しかった。
遊び仲間の兄弟がトラディショナルな意味の兄弟になるんだから。


儀式は素晴らく成就し、めでたしめでたしに終わった。
僕はバズの義理のお父さんF.K.の新しい息子として家族に加えられた。
それ以来、今も僕は儀式を受け続け、でもバズはやっぱり来なくなっている。
あれからバズは儀式に出たかと聞くと
『バズにとってあれが最初で最後みたいなもんだったな(笑)』だそうだ。(笑)


EPISODE 6 「兄弟アルフレッド」