EPISODE 6 「兄弟アルフレッド」


初めてアルフレッドと会ったのもバズと遊んでいる時だった。
11年前、彼はフェニックスに住んでいた。
いつもキマってるか、酔っぱらっているか、その両方か、まともじゃなかった。
それがたまらなく楽しくもあるんだけど。まぁ、その当時はみんなそんなだった。
言葉にはいちいちクソとかファックという単語がからみ典型的なコワレかけ人間だった。


日本へ向けて帰る前に盛り上がろうとバズはフェニックスであるジョールイスウォーカー(ブルーズマン)のライヴを見に連れていってくれた。
バズの言う白人的生き方とは、
音楽プロモーターをして酒を飲んで日々を過ごすことだった。
そんな彼の仕事のおかげでジョールイスのバックステージに招かれ話もすることが出来たし
エキサイティングで楽しい夜を過ごした。
帰ってきた後、旅立つ前の夜だったせいか突然、それまであまり話をしなかったアルフレッドが
しかもシラフで話しはじめた。


『おれにはリトルアウルって言う名前がある。小さい時はベアフィートって名前だった。
小さい時、足が(内股に)曲がっていたんだ、熊のようにね。
父ちゃん(F.K.=僕を迎えてくれたスピリチュアルファーザー)と俺に血のつながりはない。
F.K.父ちゃんは育ての父でおれを育てる経済力のなかった実の妹からおれを引き取って育ててくれた。
お前におれのメディスンを見せよう。(ポーチの中身を出して)この鷲の爪でな、
おれの本当の母ちゃんが亡くなったときおれはこの鷲の爪で傷をつくって血を流し捧げたんだ。
兄弟、この爪を持ってろ。(鷲の)爪は掴んだら放さない。今度来る時まで持ってるんだ。
そして、今度お前が帰ってきたら一緒に狩りに行こう。弓を使ってな。銃じゃ簡単すぎる。
弓を作って、それを持っていこう。インディアンスタイルだよ。
トラディショナルだし、カッコイイだろ?』


醒めたアルフレッドの話は気持ちよく、かっこよく、嬉しかった。
僕はその爪を握りしめ「放されるものか」と心に祈り日本に帰った。
ことあるごとに僕は自分のメディスンポーチからその爪を取り出しては、
第2の故郷に思いを馳せ、帰れる日を夢見ていた。


次の年には約束通り、僕は新しい家族のもとに帰ることが出来た。
何があったか聞かなかったがアルフレッドはガールフレンドとその間に出来た息子と別れ、
フェニックスから戻っていた。
ドラッグも酒もやめて、クソとも言わず、お父さんのジュエリー作りを手伝い、
儀式を助けトラディショナルな生き方に戻っていた。
鷲の爪を彼に戻し、彼は兄弟として様々なことを僕に教えてくれる大事な存在になった。
ジュエリー作りでも僕は教えられることばかりだったが、
外から部族にはいってみた僕の感覚で出来たモノの形も
少なからずお互いに影響を与えあうようになっていった。


狩りには未だに行ってない。時間は過ぎて、二人とも中年になってしまった。
でもいつか僕らは狩りに行くだろう。
アルフレッドは大事な僕の兄弟だ。




EPISODE 7「地元」