EPISODE 10 「セールストーク」


仕事にしている以上、売らなきゃならない。
でも僕は大規模な工場に製造に製造を発注するようなことはしていない。
最高級の品質を保つものは少しずつしか作れない。
だから、派手なキャッチフレーズの宣伝をしたところで
出来上がるもの、売るものは少ない。
だからギャラリーを都心の一等地に作る必要もない。
ネイティヴスピリットは一応は12年目になるから、
少しは名は知れてはいるが、実際はマイノリティに入る。
少量生産の手工芸品を作っているわけで
お陰さまで、それを求めていただける少ないお客さまから
12年間、充分に尽きることなくオーダーをいただき、
ものによって1ヶ月から半年お待ちいただかなければならない。


ところがある日、テレビの番組製作会社から電話があった。
通販番組で売る『ネイティヴスピリットオリジナルジュエリー』を
『番組のためだけに作ってほしい』と。
『限定品のレアもの、イイものとしてしっかり紹介』していただける、と言う。
冗談じゃない、「本当にレアなもの」がテレビに出て、
しかも「通信販売」できてどうする。
そういうレアなものといえるものは
なかなかテレビで見ることが出来ないし
通販では手に入らないものだと思っているが、どうだろう。
『限定品』を作るのは簡単、数を限ればいい。
でも「色が違う」とか、「シルク印刷が違う」、「通し番号が打ってある」
そんな違いを「限定」しているモノが氾濫してるのが現状。
中には本当の意味で
超高級ジュエリーのように本当に製作数が少なく
「稀少価値」が「守られた」『完全な限定品』もあるんだろうが、
テレビとういう巨大メディアをとおして
まことしやかに語られることに抵抗がある。


あるCM製作会社からもこんな依頼があった。
『俳優の○○さんがCMでつけるインディアン風のものを貸してほしい』とおっしゃるから、
「お宅の会社の近く、渋谷や原宿で同じようなものはあるから探してみたらいかがだろう?」
と助言させていただくと
『俳優の○○さんがつけるんですよ?』とたたみかけられ、
むかついたので丁寧にお断り申し上げた。
「俳優の○○さん」はいい人かも知れないが、
知らない、友だちじゃないから今のところ彼に対して興味もない。
芸能関係の方が身につけて、そのモノも有名になったり流行るのは当然の成りゆき、
それが悪いと言っているんじゃない。
ネイティヴスピリットの作品を求められ
着けて下さっている芸能人の方には感謝している。
一個人としてそれを好きだと感じて頂けて嬉しい。
でもそれを見た方までただまねをして買ってしまうのでは、
個人の個性が弱すぎてつまらなくなってしまう。
同時に多くの人が好まれるモノは「いいモノ」だ、とも思っているが_。
別に文句があるわけじゃない。
自分自身を楽しんで欲しいと思うだけだ。
自分自身を楽しめているひとは会って楽しいからだ。



雑誌もネタさがしに必死だ。
僕もまたネタとして、スポンサーとして誌面に出ることがある。
でも僕はみなさんと何も変わらない。
活字やナレーションはどんな個人をも強力にアピールさせる力がある。
情報を眼に見えるかたちで伝えてくれているから、
メディアは情報源として絶対的存在にみえるかもしれない。
でも、情報の市場にはインチキ宗教の本だって一緒に並ぶくらい
何でもありの世界だ。僕もそれと並ぶ。
僕をインチキと捉える人も、それもひとつの見方。
受け止める側の強いマインド(個性)と判断力でそう思われるなら
それはそれで、右へ習えで「いいもの」と捉えられるよりましだ。
テレビを、雑誌をはじめとするマスメディアの信仰、
妄信になってはいないか。
究極の「真実」の情報はあらゆる媒体を通さず、
生で直に自分の五感を駆使して得られるものだけしかないと信じる。



EPISODE 11「シリル」